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1991(平成3)年台風19号による 風倒木被害

1. 台風19号の概要1)
 台風第19号は、9月26日に宮古島の東海上で北東に向きを変え、27日16時過ぎ非常に強い勢力で長崎県佐世保市の南に上陸(上陸時気圧941hPa、最大瞬間風速42.1m/s)した。最大瞬間風速は阿蘇山で60.9m/s、長崎、佐賀、熊本、牛深では50m/s以上を記録した。 その後、加速しながら日本海を北東に進み、強い勢力で北海道渡島半島に再上陸し、28日千島近海で温帯低気圧に変わった。
 台風が非常に強い勢力で上陸し、勢力をほぼ維持したまま速い速度で北上したため、沖縄から北海道まで全国で猛烈な風となった。 最大風速は、那覇で29.1m/s(最大瞬間風速50.1m/s)、野母崎(長崎県野母崎町)で45m/s、長崎で25.6m/s(同54.3m/s)、広島で36.0m/s(同58.9m/s)、輪島(石川県輪島市)で31.3m/s(同57.3m/s)、青森で29.0m/s(同53.9m/s)などを観測した。 26日には、沖縄県喜屋武岬で9.54mの有義波高を観測した。
 このため全国で、暴風により多数の死者、家屋の倒壊等があった。また青森県などで収穫前のリンゴの落果(38.8万t)、西日本を中心に塩風による果樹等の枯死、全国で森林の倒木被害など農林水産業に甚大な被害があった。 瀬戸内海などで顕著な高潮が発生し、高波とあいまって浸水や護岸の決壊などの被害があった。また、暴風により送電施設に被害が発生し広範囲にわたり停電があったほか、塩風害により長期にわたる停電被害もあった。 九州地方、中国地方、四国地方、近畿地方では、最大潮位偏差が100cm以上、最高潮位がTP(東京湾平均海面)上200cm以上に達し、瀬戸内海などで顕著な高潮が発生し、高波とあいまって浸水や護岸の決壊などの被害があった。

図-1 台風9119号経路図

2. 九州における被害の概要
 台風19号は中北部九州から中国・東北地方に多大な被害をもたらした。九州北部の山林で大規模な倒木が発生し、福岡県では約63万戸、長崎県では約37万戸、九州全体では約36%にあたる約210万戸で停電となった。建造物への被害も大きく、熊本県では熊本城の建物が損壊、さらに電柱の倒壊なども発生した。2週間前(9/13~9/14)にも長崎市付近に台風17号が強い勢力で上陸し、九州北部を中心に被害が出ていたが、再び台風19号が上陸したことでさらに被害を大きくした。
 台風19号による被害は特に風による被害が大きかったのが特徴で、都市部では家屋の屋根や瓦の被害、山林部では倒木の被害が大きかった。山林部の被害は熊本・大分・福岡の林業地域に大打撃を与えた。強風により多くの樹木が折損や倒木という被害を受けたが、同時に地盤も樹木が揺すられることにより振動を受けることになった。したがって台風による強風は樹木だけではなく地盤にも影響を与えていることが考えられた。そして、風倒木やその地域の地盤の支持力が低下することによる二次災害が心配された。そこで風倒木の発生した斜面の地盤の調査と原位置試験を行った2)。

3. 調査場所と調査方法
 調査場所は熊本県下でも風倒木の被害が集中し大きかった阿蘇郡小国町(図-2)、南小国町(図-3)である。(赤色は風倒木発生箇所)
 調査は二次災害の恐れがあると報告のあった危険箇所で、風倒木の除去作業の邪魔にならない切原地区(写真-1)、小薮地区(写真-2)(小国町)と立岩地区(写真-3)(南小国町)の斜面で行った。調査は①斜面崩壊に対する安全性を検討するために斜面状況の調査と②斜面の樹木の被害状況の調査③および地盤の強度を測定するためにポータブルコーン貫入試験機を用いた調査を行った2)。

図-2小国町風倒木被害箇所調査位置図

図-3南小国町風倒木被害箇所調査位置図

写真-1小国町切原地区風倒木被害箇所

写真-2小国町小藪地区風倒木被害箇所

写真-3南小国町立岩地区風倒木被害箇所

写真-4小藪地区調査箇所p.1

写真-5小藪地区調査箇所p.2

写真-6小藪地区調査箇所p.3

写真-7切原地区調査箇所

写真-8立岩地区調査箇所(A,B,C)

4. 調査結果
 樹木の被害状況調査:樹木の折損や倒木について樹種や樹間間隔、樹齢、樹根の深さ、広がり等について調査した。小薮地区では3ポイントを選び調査した。P1(写真-4)は数年前に伐採され根株だけが残っており地盤に強風による振動の影響がなかったと思われる。P2(写真-5)は山頂部の傾斜の比較的緩やかな斜面で折損が多く、背丈程度の笹に覆われている。P3(写真-6)は強風が吹き降りたと考えられる谷合の斜面で倒木が多かった。切原地区(写真-7)では桧は倒れていたが松はほとんど残っていた。立岩地区(写真-8)は斜面勾配が急な部分(30゜以上)での倒木が多く、緩い斜面(20゜以下)では倒木は見られなかった。これらを纏めたものが表-1である。
 地盤の強度の測定:樹間間隔や倒木の根の広がりを参考に幹の周辺で地盤の支持力をポータブルコーンペネトロメータを用いて測定した。図-4に小薮地区の3ポイントのコーン指数と深さの関係を示す。P1(写真-4)は台風の襲来時には伐採されており、その地盤は強風による樹木の搖れの影響がないため大きな強度を示している。P2(写真-5)は斜面の勾配も比較的緩く、樹木の周辺は背丈程の笹に覆われていることから地表が笹の根によって保護されており地盤の緩みが少なかった。しかし、強風に耐えられず倒れずに折れたものと考えられる。P3(写真-6)は樹木が倒れる程、搖れているため地盤の強度が低下しているものと考えられる。図-5は立岩地区のコーン指数と深さの関係である。同一斜面内にあるが斜面の勾配が異なっているためか樹木の被害に差が見られた。Aは斜面勾配約20゜で周辺の樹木も倒れていない立木の周辺地盤の強度、Bは斜面勾配約20゜で周辺の樹木は倒れているが測定点の樹木は倒れていない地盤の強度、Cは斜面勾配約30゜で全て倒木している部分の地盤強度である。倒木が見られる部分の強度は小薮のP3と同程度の強度まで低下していることが判る。

図-4 小藪地区コーン指数  図-5 立岩地区コーン指数

写真-9 風倒木で斜面に生じた窪み

5. 考察
 今回調査した地区内では、斜面の傾斜は30°未満の斜面が多く、斜面崩壊の危険度が大きくなる傾斜30°に達していないが、写真-93)に見られるように倒木の跡に大きな窪みが生じており、雨水が浸透しやすくなり、図-6や73)に見られるように水浸によって地盤の強度も低下しているので、斜面の崩壊危険度が大幅に増していると考えられる。これらのことから、風倒木が農林災害ばかりでなく、今後の大雨等により斜面崩壊や土石流等の2次災害を引き起こす可能性が非常に高いことが予測される。
 今後もさらに倒木のあった地盤の強度を継続的に調査するとともに、より調査地域を広げて地盤に及ぼす風倒木の影響を明らかにしていく必要がある。

図-6 水浸による支持力の低下(小藪地区)  図-7 (切原地区)

参考文献
1)気象庁:災害をもたらした気象事例 台風第19号 平成3年(1991年)9月25日~9月28日
2)北園・鈴木・中川・富野:風倒木が地盤に与える影響、第28回土質工学研究発表会pp.95-96、1993.6
3)北園:阿蘇郡小国町・南小国町の風倒木災害の追跡調査、第2回熊本自然災害研究会研究発表会要旨集(平成5年度)、pp.17-21、1993