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1999(平成11)年台風9918号による熊本県内の被害

1.概要
 台風9918号(図-1・赤線)は、平成11年9月19日に沖縄の南海上で発生し、発達しながら北上した。24日午前4時頃天草下島に上陸、その後時速約50km/hで午前6時には荒尾市に上陸した後、九州北部を通り、24日午前8時30分には山口県宇部市付近に再上陸し、中国地方西部を通って日本海に進んだ。25日2時頃北海道渡島半島に再々上陸し、北海道西岸を北東に進んで、25日12時に網走沖で温帯低気圧に変わった。1)
 午前6時に荒尾市に再上陸した台風9918号は不知火海や有明海が満潮に近い時間帯であったため、中心気圧は950hPaと平成3年の台風9119号とほぼ同じが、高潮が発生し、不知火町で12名の犠牲者が出た。また、暴風域も半径150kmと小さかったが台風の速度が速かったこともあり、台風の南東側となった熊本県内は雨と強風で土砂災害も多数発生した。

図-1台風9119号と台風9918号の経路図1)に加筆

2.気象状況2)
 台風9918号は図-1に示されるように進路と被害状況から台風9119号と比較されるが台風9918号は9119号と比べて、暴風半径は半分程度であるのに対し、上陸時の気圧はさほど変わらない。また、九州通過時の中心進路が9918号は9119号よりも約60km南側に位置しており、最も風が強く吹いた領域に八代海が位置する結果となった。そのため、台風9918号では牛深市で最大瞬間風速66.2m/sを記録した。しかし、天草郡御所浦町ではそれ以上の強風が吹いたと報告されている。御所浦と牧島との間に中瀬戸が走っており、瀬戸をかける橋の上に風速計を設置している。その風速計では午前4時27分に最大瞬間風速69.3m/sを観測した。午前4時30分過ぎに台風中心部が最接近した後、吹き返しに伴う強風によって風速計のプロペラが吹き飛んでしまい、その後は計測不能となった。風速計は70m/s近くまで耐用しているため、それ以上の強風が瞬間的に吹いたと考えられる。
 天草・芦北地方の各役場・消防署などより入手した風速記録より作成した、最大瞬間風速分布を図-2)に示す。図において牛深測候所・御所浦町の他に、龍ヶ岳町、八代港(運輸省第四港湾八代港事務所)においても、最大瞬間風速60m/sを超える猛烈な風を記録している。そして、これら4箇所は不知火海内部を北東方向に一直線上に並んでおり、台風の推定進路にほぼ並行であることが分かる。不知火海は北東-南西方向に延びており、最大瞬間風速の領域が最も長く吹き付けたことになる。これに伴って生じた非常に大きな吹走効果が、不知火町等の高潮に至った一因とみなせる。

図-2 台風9918号の経路と最大瞬間風速分布図(3)に加筆)

3.風倒木と斜面崩壊4)
 熊本県を中心に台風による風倒木や斜面崩壊は平成3年の9119号でも大きな被害が発生しているので、9918号と9119号を比較しながら検討する(表-1)。山腹崩壊箇所数は9918号の方が2倍以上と多いが被害面積は9119号の方が大きい。0.25ha(50m×50m)以上の崩壊数は9918号が44箇所,9119号が32箇所と9918号の方が多いが,総崩壊数に対する割合は9918号が26%,9119号が37%,崩壊面積/箇所数も9918号が0.19ha/箇所,9119号が0.57ha/箇所となり,9918号の山腹崩壊は比較的小さな崩壊が多数発生していることが判る。
 また,表-2に示すように発生地域の特徴は9119号の場合,進路が佐世保市付近上陸と北側だったため,風倒木被害は阿蘇地方と山岳地域の球磨地方に集中し,この両地域で被害額の75%を占めている。9918号の場合は,進路が天草から荒尾市付近を通過したため,その中心から東側に当たる地域に風倒木の発生箇所が集中しており,天草・芦北・八代・菊池・鹿本と山岳地域での被害が大きかった。その中でも芦北・八代で60%前後を占めている。また,9119号の場合,風倒木被害は杉・檜等の植林地が殆どであったが,9918号の場合は杉・檜の植林地も多いが雑木林の倒木や折損も見られる。9119号の林産物の被害箇所数や面積が不明なので,簡単には比較はできないが1箇所当たりの被災面積は9918号の方が小さい印象が強い。
 山腹崩壊は9119号の場合,風倒木被害に比べ少なく風倒木発生箇所と山腹崩壊箇所はほとんど一致しておらず,調査した範囲に関する限りは一致した箇所は見受けられなかった。しかしながら,斜面崩壊の誘因として影響の最も大きい降雨量を見ると,市房山の日雨量156mmが最高で,熊本県内で斜面崩壊を起こす恐れがある雨量とは言えない。それでも87箇所の山腹崩壊が発生しているということは山腹崩壊に強風の影響があったと言える。9918号の場合,風倒木被害は9119号よりも少なかったが,山腹崩壊は2倍以上発生しており,風倒木発生斜面の山腹崩壊が現地調査の結果,多く見受けられた。特に風倒木の発生の多かった八代・芦北・天草地域に山腹崩壊も多数発生している。強風時の降雨量は山岳部(湯山・小麦尾・葉木)で日雨量200~250mmに達している。但し,風倒木の多かった天草・芦北・八代・鹿本地域は100mm程度であり,風倒木斜面でも山腹崩壊が発生していることから,9918号の場合も斜面崩壊に強風の影響があったと言える。
 台風9918号による斜面崩壊箇所の例を以下に示す。

表-1 台風9918号と台風9119号の土砂災害関係の比較

表-2 台風9918号と台風9119号の被害比較(熊本県林務水産部資料)

(1)宇土郡不知火町於呂口(おろぐち)
 斜面状況:直高15mの自然斜面で高さは高くないが斜面傾斜が70~80°と急傾斜である。基岩は未溶結の凝結岩で,表層はその風化土からなっており,表土が50cm程度と薄い。その為過去の表土の剥離跡が多く見られる。樹木は樫等の雑木林である,斜面は樹木・草で覆われている。斜面の向きは南東で不知火海岸沿いであり,今回は台風による強風をまともに受ける斜面である。
 倒木の状況:樫の倒木が見られたが、根元から30cmの部分の直径は30cmと比較的大きい木であり,樹根の広がりは2mであったが,樹根の深さが50cmと浅く,台風による強風をまともに受け倒木したと考えられる。
 崩壊状況:過去の薄い表土の剥離崩壊の根跡が見られ、今回は崩壊深さ20~30cm程度斜面中部(高さ10m程度)からの崩壊で幅は50m程度と大きな崩壊ではない。
 特 徴:斜面が急傾斜で表層が薄い、その為樹木の根の深さも浅い為,根の広がりはあったものの海から直接あたる強風により倒木に至り,その倒木により表層が剥離する形で,土砂が落下している。また,崩壊部の上部や周囲は緩んだ表土が残っており規模は小さいが徐々に落下する恐れがある。

写真-1 不知火町於呂口の斜面崩壊

(2)八代郡坂本村下深水高野
 斜面の状況:斜面傾斜約40度で直高180m,縦断形状はわずかに窪んだS型である。横断形状としてはほとんど平面である。斜面下端部は道路保護の為,5~6mのブロック積とフェンスがある。
 倒木の状況:檜林と杉林が並んでおり,檜は20年,杉は30年前後。樹間は1.8m前後で胸高直径15cm,根の深さは50cm程度で根の広がりは檜で1.2~1.3m,杉は約2mと檜の方が狭い。
 崩壊状況:風倒木斜面の中央部分の斜面下部で高さ約45m付近で幅30mに渡って表層崩壊(層厚50cm)を起こしている。斜面の横断形状はほとんど平面であるが,崩壊部分はやや凹地形となっている。
 特 徴:強風による風倒木は幅220m,高さ70mの範囲で発生しているが,中央の崩壊した部分の右側の杉林や左端の杉は立木として残っている。また,折損木も見られる。24日の降雨量を見ると100mm強で斜面崩壊が起こる雨量とは言えないことから,風倒木により斜面が緩み崩壊したものと考えられる。

写真-2 坂本村下深水高野の斜面崩壊

(3)天草郡龍ヶ岳町高戸椚島(くぐしま)
 斜面の状況:標高87mの椚島の中央部東側斜面で縦断形状はS型斜面で斜面中部の一部にオーバーハングが見られる急傾斜となっている。傾斜角は60度程度である。横断形状は緩い谷形状を示す。湧水は見られないが,オーバーハングや地形図には周辺に崩壊跡が見られ,崩壊を起こしやすい地形・地質であると考えられる。土地利用形態は山林で雑木林である。表層土質は礫質土で表層が薄く厚いところで1m程度である。基岩は砂岩で地層傾斜は受け盤である。斜面上部は堅いが下部は弱く一部に花こう岩を巻き込んでいる。
 倒木の状況:広葉樹の雑木林で倒木の根の深さは80cm程度,根の広がりは3m程度で広いと言える。樹高は12~13m前後で胸高直径は20cm程度である。倒木の方向は北向きとなっているが,緩やかな谷地形で東斜面のこの場所に吹き上げるような形で強風が当たったためと考えられる。
 崩壊状況:斜面下部(高さ15m)で幅50mに渡って崩壊している。台風による日降雨量は33mmで降雨は少なく,最大時間雨量も12mmで降雨による影響はほとんど考えられない。崩壊深度は50cm程度で周囲の樹木は薙倒されており,台風の強風による樹木の揺動と倒木により斜面が緩み急傾斜であったことから,表層が樹木と一緒に崩落したものと考えられる。
 特 徴:現地調査時には樹木で覆われて見られなかったが,地形図を見ると周辺部では斜面下部に多くの崩壊跡が見られることから,この急斜面全体が非常に崩壊を起こしやすい地質・地形であると言える。樹木は雑木が密生しており,根の広がりも結構広いが,強風により樹木が揺動し,薙倒されたことで急斜面の表層が緩み降雨が少なかったにも係らず,崩落したものと考えられる。

写真-3 龍ヶ岳町高戸灯椚島の斜面崩壊

(4)芦北郡芦北町吉尾
 斜面の状況:自然斜面の山林は雑木林で,表層地質は礫質土で基岩は砂岩,斜面の向きは東で斜面傾斜は45度,縦断形状はわずかに凸で横断形状はほぼ平面で隣接して2箇所が崩壊,降雨時に湧水が見られる。
 崩壊状況①:頭部の位置は斜面中部で高さ110m,幅20m,深さ2m,
 崩壊状況②:頭部の位置は斜面下部で高さ40m,幅35m,深さ2m
 特 徴:雑木林で風倒木は見られず,降雨量は100mm程度と考えられることから,降雨時に湧水があるとはいえ,梅雨時の雨量でも崩壊していない。したがって,100mm程度の降雨量では崩壊するとは考えらず,崩壊原因は台風時の強風によって雑木林が倒木するまでには至らなかったがかなり地盤が揺動され緩んだため,降雨時の湧水で地盤内の間隙水圧が上昇し崩壊したものと推察される。

写真-4 芦北町吉尾の斜面崩壊

(5)水俣市中鶴岩下
 斜面の状況:斜面高120mの縦断勾配凹型で谷地形の斜面で,斜面勾配は40度弱である。斜面の向きは南西で,下方は湾曲して南となっている。表層土質は礫質土で基盤の地質は斜面上部が安山岩で下部は四万十層群の砂岩泥岩の互層が存在している。崩壊斜面内のこの境界と思われる付近から湧水が見られた。斜面は杉林で一部檜も見られる。風倒木は崩壊斜面を含む西側斜面で発生しており,根返りと折損が見られる。樹齢は20年~30年で胸高直径20~25cmで根の深さ70~80cm,根の広がりは1.5~2.0mである。降雨量は100mm強で最大時間雨量25mmと通常の斜面崩壊を起こす豪雨とは言えない。但し,最大降雨時に最大瞬間風速55.8mを観測している。
 崩壊状況:斜面のほぼ上部にあたる部分から高さ90mに渡って約20mの幅で崩壊が発生している。崩壊高さが高かったが,表層崩壊(崩壊深さ約0.5m)であること,崩壊土砂は下部の勾配が緩いこと,斜面の向きが湾曲していることと倒木が柵となったため,家屋の寸前で止まっており,人的被害に至らなかった。
 特 徴:降雨量はそれほど多くはなかったが,崩壊斜面上端部は斜面勾配40度を越す急斜面となっており,強風による揺動が激しく地盤が緩んだことと,さらに崩壊斜面中部に湧水が見られるようにその時間帯に最大時間雨量が重なったことで,地下水位が上昇し,地盤の支持力が大きく低下し崩壊に至ったものと考えられる。

写真-5 水俣市中鶴岩下の斜面崩壊

(7)地盤災害の纏め
 台風9918号の地盤災害について資料収集と現地調査を行ったが,その特徴を纏めると次のようになる。
 1)同様な台風として比較される台風9119号に比較して,山腹崩壊箇所数が非常に多く,9119号では顕著でなかった風倒木斜面内の斜面崩壊が9918号の場合は多く,現地調査においても風倒木斜面内の崩壊は12/17で,風倒木のみで斜面崩壊がなかった斜面は4/17と圧倒的に斜面崩壊を起こした風倒木斜面が多かった。
 2)風倒木による被害は9918号の場合,被害額で9119号の57%,被害面積で64%と台風の進路は熊本県に近かったものの少なかった。しかしながら,9119号から9918号までに熊本県内に影響を及ぼした台風は9313号,9514号等があり,9313号でも県南部で風倒木被害が目立っており,9119号から10年以内にかなりの山林が強風の影響を受けており,9918号の場合,9119号や9313号で倒れなかった樹木が被害を受けたと言える。その為、9918号の場合,植林地だけでなく,雑木林の被害も目立った。
 3)台風による山腹崩壊は降雨量が梅雨時の集中豪雨よりも少ないにも係らず崩壊を起こしており,急斜面上の樹木が強風による揺動で地盤を緩め,わずかの雨で表層付近が崩壊している例が目立った。
 4)9119号以後の93年の小国町杖立の斜面崩壊,97年の坂本村鮎帰の斜面崩壊は何れも風倒木跡地で発生している。また,台風の強風による影響は立木でも樹勢が衰えているという報告もあり,今後山地の地盤の支持力の回復が進むまでの相当期間は斜面崩壊に充分気をつける必要があると考えられる。

4.不知火海高潮災害5)
 不知火海(八代海)の湾奥部一帯では強風による高潮・高波により広範囲にわたって氾濫した。熊本大学で調査した高潮の痕跡高(T.P.上)を図-3に示す。不知火町松合地区では、海水が一気に低水地内に流入し12名もの犠牲者が出た。これは熊本県内では1959年9月の台風14号で天草地方を中心に発生した高潮災害以来、また全国的には同じく1959年9月の伊勢湾台風以来の高潮による犠牲者であり、社会的にも大きな衝撃を与えた。この高潮災害の特徴はまず第1に、中心付近に極めて強い強風域を持つ台風9918号が不知火海の西側に沿って北上する最悪のコースを通り、しかも通過時間帯が24日4時から6時で秋の大潮の潮位上昇時間帯と一致したことである。第2には、不知火海が南東に細長く、しかも湾奥には満潮時でも水深が2m程度にしかならない広大な干潟が発達した地理・地形特性にあり、これにより高潮、波浪が増幅した点にある。この結果、満潮時刻の約2時間前にあたる6時にはほぼ同時に湾奥部一帯で最高潮位となり災害が発生した。
 今回の台風9918号は1991年9月に九州、中国地方を縦断し東北、北海道に再上陸した台風9119号とほほ同じ経路を通った。台風の勢力は9119号の方が大きく、被害が及んだ範囲も広いが、台風が干潮時に通過したため高潮・高波の被害はほとんどなかったが、今回は床上、床下浸水が目立ち、不知火海沿岸に沿って被害が集中した。

図-3不知火海沿岸の高潮痕跡高と浸水域5)

(1)不知火町松合地区の被災状況6)
 松合地区では図-47)に示すように3箇所の船溜があり、それぞれ幅20~30m程度の開口部で不知火海と通じている。午前5時30分ごろ開口部より進入してきた海水が船溜周囲の護岸(天端高T.P.+3.2m)を最大1.3mも越流し、堤内地(地盤高T.P.+0.5m~)へ流入した。聞き取り調査によると、両側船溜(大須、和田)の方が中央の仲西船溜よりも早く越水し、冠水は30分程度で引いたとのことである(写真-68))。被災直後の現地調査の結果、山須船溜付近の海岸堤防の一部で越水の痕跡が認められた。しかし、国道266号の堤防(天端高T.P.+4.9~6.5m)を海水が激しく越流、越波した痕跡は確認できなかった。

図-4 不知火町松合の高潮の浸入経路7)

写真-6 不知火町松合の被災状況8)

(2)松橋町松橋地区の被災状況6)
 松橋地区では、大野川の本川に架かるJR橋の上流側500m区間、及び港川との合流地点からJR松橋駅付近の区間において、午前5時半頃から越水が始まり、6時半すぎまで増水が続いた。特に大野川右岸及び港川両岸からの浸水が激しく、古い堤防(T.P.+3.3m)を約1mの水深で越水し、292戸の床上浸水被害が発生し、住民300人が自主避難した。

写真-7 松橋町松橋地区の被災状況

(3)八代郡氷川町氷川の被災状況6)
 八代干拓地を流れる氷川の右岸、河口から上流約3kmの区間において、午前5時半頃から越水が始まった。さらに午前6時~7時にかけて河口から1km上流の県道八代不知火線・氷川大橋の直下流地点において約50mわたって破堤(堤防高T.P.+3.5m)し、他の区間からの越水と合わせて大量の水が堤内に流入し、浸水被害が発生した。その他の被害規模は施設被害として右岸側の裏のり面崩壊1,600m、左岸で同じく400m、また一般被害では床上浸水15戸、床下浸水270戸、浸水面積は592.4ha、住民避難は約800人であった。

写真-8 氷川町・氷川大橋付近の被災状況

(4)松橋町八枚戸川・小川町砂川の被災状況6)
 八枚戸川・砂川は背割堤により分けられており、右岸側が八枚戸川、左岸側が砂川である。八枚戸川では河口の県道八代不知火線から上流の県道八代鏡宇土線までの2km区間において午前5時半頃から越水(堤防高T.P.+4.1m)が始まり午前7時過ぎまで続いた。この越水により1,840mに渡り堤防裏法面が崩壊し、40戸に床上浸水被害が生じた。砂川では河口の県道八代不知火線から上流1,770m区間において、午前5時40分頃から越水(堤防高T.P.+4.1m)が始まり午前7時過ぎまで続いた。この越水により550mに渡り堤防裏法面が崩壊し、20戸に床上浸水被害が生じた。両河川による浸水の解消は同日の14時過ぎであり、付近住民70名が役場や小学校に自主避難した。

写真-9 松橋町八枚戸川堤防の崩壊状況

(5)八代市鏡町鏡川の被災状況6)
 河口から鏡町中心地までの約3.3kmの区間において、午前6時ごろから両岸同時に越水(堤防高T.P.+2.7m)した。大半の区間では午前7時までには越水が終わったが、一部の区間において午前8時の満潮時に再度越水し、最終的には午前10頃まで浸水が続いた。地元消防団の懸命な避難誘導及び救助活動により被害は最小限に抑えられたものの、鏡川最下流の県道八代不知火線・横江大橋直上流の左岸地点における越水を原因として、2日後の26日に75歳の男性の死亡が確認された。その他、施設被害として裏法面崩壊が右岸で260m、左岸で470m、また一般被害では、床上浸水180戸、床下浸水709戸、浸水面積は254haであった。

写真-10 小川町砂川堤防の崩壊状況

(6)不知火海高潮災害が残したもの9)
 今回の災害は、不知火海地区が、これまで高潮・高波被災の経験がなく、ハード的にもソフト的に無防備状態であり、学術的にも技術的にも重大な多くの教訓と課題を残した。
低くて古い堤防、低平地への人々の居住等々、歴史的経緯や地域環境の側面からの研究も必要である。
 技術的には、まず第1に設計基準の考え方である。今回の高潮水位は既往最大あるいは確率災害のそれを遥かに.2mも超えるものであった。この地点が安全であるためには、今回のような最悪の条件に対して対処し得るものでなければならないということである。
 第2には予報と避難のソフト面の充実である。今回の潮位記録は、不知火町から10km以上離れた八代と三角にしか残っていない。異常な水位の上昇等をいち早く察知し、避難体制がとれるようにすべきである。関連機関の気象関連の観測網が連携されて、防災・環境のための情報ネットワーク化を積極的におし進めることが必要である。
 第3に海岸行政の1本化である。海岸災害は沿岸域一帯に及ぶが、行政の担当部署で分断される。海岸線は一本で繋がっているが、行政の都合で分断していては被害の最小化にはつながらない。
日本中の至る所に、不知火海、特に松合地区と同様な沿岸地区があると思われるが。第2の不知火災害が生じないように、今回の災害を教訓として、その課題を早急に解決していかねばならない。

写真-11 八代市鏡川の氾濫による浸水状況

参考文献
1)気象庁、各種データ・資料、災害をもたらした気象事例 平成11年(1999年)台風18号
2)滝川清:台風9918号による不知火海高潮災害、土木学会誌Vol.85,No.3、pp.41-45,2000.3
3)竹村豊文:台風9918号に伴う強風及び強風災害分布特性に関する研究、熊本大学工学部環境システム工学科平成12年度卒業論文、平成13年2月
4)北園他:台風9918号による風倒木と斜面崩壊、第9回熊本自然災害研究会研究発表会要旨集、2000.11.14
5)滝川他:現地調査結果から見た台風9918号による不知火海高潮災害、第9回熊本自然災害研究会研究発表会要旨集、pp.76-77,2000.11.14
6) 滝川他:現地調査結果から見た台風9918号による不知火海高潮災害、第9回熊本自然災害研究会研究発表会要旨集、pp.72-75,2000.11.14
7)井手俊範:1999年台風十八号による不知火海沿岸における被害地域お地理的及び社会的原因調査、熊本大学工学部土木環境工学科平成11年度卒業論文、平成12年2月
8)九州地方整備局:防災の取組みと過去の災害、(18)台風18号[高潮災害](写真提供:不知火町)
9) 滝川他:現地調査結果から見た台風9918号による不知火海高潮災害、第9回熊本自然災害研究会研究発表会要旨集、p.79,2000.11.14